今シーズンの様々な混乱を象徴するような出来事がベルギー、スパ・フランコルシャン・サーキットで起きました。 そのサプライズを演出したのはフォース・インディアを駆るジャンカルロ・フィジケラ。 結果だけならば確かに優勝ではなく2位であり、ファステスト・ラップもレッド・ブル擁するセバスチャン・ベッテルに持っていかれはしたものの、彼と彼のチームがポールポジションを獲得し、決勝で常に優勝を狙える位置で闘い続けることができるなどと、いったい誰が想像したでしょうか。 確かに今シーズンのフォース・インディアのマシンVJM02は、メルセデスエンジンを獲得し、マクラーレンとの技術提携の効果も徐々に顕われ始めたことでサーキットによっては時折Q3に進出するほどの早さを発揮できるようになってきてはいました。 しかしこれまでそれを成し遂げてきたのは若きエイドリアン・スーティルの方であって、ジャンカルロ・フィジケラに至っては話題に昇ることも希な状況になっており、来シーズンまでに引退を囁かれるドライバーの筆頭と言っても良い状態でした。 ところがベルギーGPが開幕してみれば既報のとおり、まさに開いた口が塞がらなくなるようなフィジケラ+VJM02の快走です。 2009年はご存知の通り空力に関するレギュレーションが大幅に変わりはしたものの、シーズンも折り返しを過ぎた今となっては各チームとも失われたダウンフォースのほとんどを取り戻すことに成功していると見られ、その伸びしろは他チームと比較すれば見劣りするのは否めないとしても、フォース・インディアとてそれが例外ではないことは僅差の予選結果などからも見て取れます。 それよりもむしろ余分な空力付加物によって生み出されるドラッグの影響を受けずに取り戻されたダウンフォースに加え、やはり今シーズンより復活したスリックタイヤの高いグリップ力によるゲインのもたらす相乗効果は非常に大きく、昨シーズンのベルギーGPでキミ・ライコネンが記録した1分47秒930に対する、今回セバスチャン・ベッテルが叩き出した1分47秒263というファステスト・ラップタイム比較からも解るとおり、ラップタイムへの純粋なプラス要素となっていることは明らかです。 前述のとおり、もともとフォース・インディアVJM02はダウンフォースの発生量が他チームに対して不足しているということが欠点として認識されてきましたが、逆に高速サーキットに分類されるスパ・フランコルシャン・サーキットではこれを補うべく試行錯誤のセットアップを煮詰めてきたことが上手い具合に利に転じたのは結果が示すとおりです。 ですが、そうした要素を勘案してもVJM02の正当なポテンシャルはスーティルの得た11番グリットあたりが順当なところでしょう。 つまりVJM02というマシンがもたらしたサプライズはここまでで、そこから先は間違いなくフェジケラの功績ということ。 ベテランと呼ばれる域に達した経験に裏付けされた彼の技術と判断が、スパというオールドサーキット攻略におおいに寄与したあろうことは想像に難くありません。 と、ここまでは1つのレースに関する話に過ぎません。 特段に荒れたレースというわけでもなくこうした演出をしてのけたフォース・インディアとジャンカルロ・フィジケラに対しては賛辞を惜しみませんが、そこで終わらないところが今回の何よりのサプライズでしょう。 既に皆さんも驚きをもって受け入れておられると思いますが、当のジャンカルロ・フィジケラがフェリペ・マッサの負傷欠場により空きとなったフェラーリのシートを獲得してしまったのです。 その経緯については皆さんもメディアを通じて見知っていることと思いますので詳細は省きますが、先に一言でまとめてしまえば「幸運」という言葉に尽きるでしょう。 フェリペ・マッサを突然に襲った不運な事故により代役探しが急務となったフェラーリは、当てにしていたミハエル・シューマッハに頚椎の怪我を理由に代役をキャンセルされ、急遽、長年にわたってテストドライバーを努めてきたルカ・バドエルを指名。 しかしながら、長年のご奉公への褒美ともとれるこの決断は完全に裏目となり、10年間実戦から遠ざかっていたバドエルのブランクは如何ともし難く、バレンシア、スパともにここで語ることも躊躇するような悲惨な結果に終始しました。 結局、次戦イタリアGPで同様の醜態を晒すわけにはいかないフェラーリは代役の代役のそのまた代役を探す羽目に陥っていました。 そんなところに来ての、このフィジケラの快走です。 先にも述べたとおり、VJM02がスパのサーキットにマッチしたこと自体が幸運と言われても仕方のないものでありながら、直前にマッサが負傷欠場となったこと、ミハエル・シューマッハが怪我が完治していないことで代役をキャンセルせざるをえなかったこと、その代役を指名されたバドエルが悲惨なドライビングを露呈してしまったことでもうひとりのリザーブドライバーであるマルク・ジェネが代役に抜擢される芽まで摘んでしまったこと、そしてそのまた代案をフェラーリが急ぎ検討しなければならない事態に陥ったのが今回のサプライズの舞台であるベルギーGPであったこと、これにフォース・インディアの昨年のエンジンフィーがフェラーリに対して未払いであったという事実を付け加え、これらの事象が唯の1つとして欠けることなく全て出揃って初めて達成されたフィジケラのシーズン途中でのフェラーリ入りです。 何が起こるか判らないのがF1・・・とは、まったくよく言ったものです。 もちろん、熱狂的なティフォシの前でいきなりのフェラーリデビューを果たすことになるわけですし、スパでミラクルを演じるまではチームメイトのスーティルにさえ出し抜かれることがほとんどであったことを鑑みれば、フィジケラとて舞い上がってばかりなどいられません。 本人は「夢が叶った」とその希に見る「幸運」に歓喜しているところでしょうが、その夢がわずか1戦で覚めてしまうことないよう、フィジケラには惨めなドライビングだけは晒さないでいただきたいと切に願うばかりです。 さて、そのフィジケラの後任にはリザーブとしてチームに帯同していたビタントニオ・リウッツィの昇格が決定し、フェラーリのドタバタ人事に端を発したドライバーの玉突き人事も、これをもってひとまず落ち着きました。 しかし、それもまたイタリアGP終了後までという保証があるに過ぎないのもまた事実。 ここまで話を進めてきて「佐藤琢磨」の名前が出てこないことに私自身少々の苛立ちを禁じ得ませんが、モータースポーツに無関心な日本のマスメディアの体質がその事実を伝えるうえでの障壁となっているようでなかなかニュースとして日本には伝わってきませんが、現地ではここにきて「Takuma.Sato」の名前が確実に浮上してきているようです。 フェラーリがフィジケラの獲得を発表するその少し前に公表した代役ドライバー候補リストに琢磨の名があったことは、自チーム内候補からメディアで取り上げられたものすべてを含むと前置きされていたようにあくまでフェラーリが琢磨サイドから打診を受けていたことの証に過ぎないと個人的には考えていますが、フィジケラを放出した側であるフォース・インディアでは間違いなく琢磨の名がリストアップされていたと確信しています。 今回はフリーな立場を選択していた琢磨よりも、リウッツィのリザーブ契約が尊重されたというだけの話であって、琢磨サイドのマネジメントチームが積極的なアプローチを継続しているならば、リウッツィのイタリアGPの結果次第でどうにでも事は転がるもの・・・と、勝手に考えているところです。 ただし時折取り上げられているトロ・ロッソに関しては、セバルチャン・ブルデーの解雇に伴う一連の動向をご覧になって既にお気付きの方もおられるとおり、直線走行を除くテストドライブが禁止されている今シーズンにおいて、レッド・ブルの強い意向を受ける形でサポートドライバーの実地テスト担当と化しているようなチーム状況でもあり、トロ・ロッソ独自の意向が強く押し出せるような何かが起こらない限り琢磨がそのシートに収まる可能性は非常に低いと言わざるをえません。 その何かはとは言わずと知れたスポンサーフィーであり、マスメディア同様に日本企業のモータースポーツに対するお寒い状況下にあっては、悲しいかなやはり可能性は無きに等しいものと考えるよりほかありません。 また来シーズンより参入することが決定している新規3チームについても、実態がおぼろげながらも見えてきているのはUSF1くらいなもので、カンポス、マノーの2チームに至っては現時点においては本当に来シーズンより参戦することができるのか否かすら見えないような状況です。 カスタマーカーが認められていない今日では、我らがスーパーアグリF1チームを例に出すまでもなく今から参戦体制を築き上げていくのは容易なことでありません。 もしもこれらチームすべての参戦が叶うのであれば、経験豊富かつチームを牽引できる能力について立証済みの琢磨がシートを獲得できる可能性は大いに高まりますが、前述のような状況とあっては琢磨サイドから契約交渉もおいそれとは持ち掛けられません。 前出以外の既存チームのシートを狙うにしてもBMWは既に撤退を決定しており、同チームの存続に関してはホンダ撤退時のブラウンのような引受手の出現如何にかかっている状況ですし、最近ではトヨタ撤退の噂に加えてクラッシュゲート問題に揺れるルノーの撤退も囁かれ始めるなど混沌としており、やはり契約交渉を推し進めていくうえでは、それ以前に解決されていなくてはならない琢磨サイドには如何ともし難い問題が山積しています。 切りが無いのでその他のチームに関しての動向や問題は専門誌に譲るといたしまして、ともかくF1復帰を最優先に考えている琢磨にとってはけしてチャンスが豊富な環境であるとは言い難い状況であることは確かです。 かといって悲観的になる必要はないわけですが、例年にも増して慎重に慎重を期して事を進めていかねばならない非常に困難を極める事態にあることは、私たちファンも認識しておくべきかと思います。 3年の月日を経て再び鈴鹿の地に戻ってくるF1日本GPまで1ヵ月を切った今、琢磨の周辺に何らかの動きはあるのでしょうか。 また、来シーズンに向けて琢磨がステアリングを握ることになるステージは、F1界に用意されることになるのか、それともアメリカに舞台を移すことになるのか。 目新しい情報が聞こえてこない状況の私たちファンにとっては、今はただ琢磨を信じて、琢磨により良いチャンスが訪れ、1日も早く琢磨サイドから吉報がもたらされることを強く願うよりほかなく、琢磨サイドのマネジメントチームにはより一層の奮起を期待したいところです。 まずは目の前に迫った日本GP。 2009年、新生鈴鹿のグリッド上に「Takuma.Sato」の名前がありますように・・・。
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